パラレルワールド・4

投稿者: kibakoichi

画像

ウィリー気味に僕はバイクを加速させる。ぎゃあっとハルがしがみつき背中に乳房が押しつけられて僕はちょっとドキドキする。渋滞の壁が迫ってくる。ギアを落とし車線を踏んで車の隙間を縫うように僕はブルターレを走らせる。このまま街を抜けて湾岸に出よう。ビジョンの中の荒野みたいに広いところを気持ちよく飛ばそう。そう思って青山一丁目の交差点を右折し六本木の交差点を抜けて海に向かって南下しているとバックミラーがギラリと光る。1台の車がすごいスピードで後ろから追い上げてくる。僕はバイクを右に避ける。重いエンジン音を響かせながら黒曜石みたいに黒く輝く平たい車体が、思い切り車線を跨いだ形で、ブルターレの左に並ぶ。
ランボルギーニ・アヴェンタドール。本物走ってるトコ初めて見た。こんな車をこんなにラフに乗り回してんのってどんなヤツ、と思って助手席の窓を僕はのぞき込む。そしてそこに美猟先輩の顔を見つける。
艶のある大きな黒い瞳。つんと高い鼻。桜色の唇。僕の心を鷲づかみにしたあの顔つき。
制服じゃないし少しメイクもしてたけど美猟先輩に間違いない。
バイクを盗んだ興奮、馬で赤い荒野を疾走したビジョンを再び味わえた爽快感、ハルとタンデムして走っている愉しさが、吹き飛ばされて全部消える。ほんの数秒並んだだけで、黒いアヴェンタドールは僕とハルを追い抜いていく。テールランプが遠ざかっていく。僕はそれを呆然と見つめる。
何してんですか先輩。
どうしてそんな車に乗ってるんです?

画像

 甲斐美猟って四大の大学生とか一流企業のリーマンとかとメチャクチャ遊びまくってんだよ知らねーの?
 甲斐美猟、婚約したらしいよ、相手は超エリートの公務員。

ハルと武市先生の言葉が頭の隅をよぎって消える。
ギアをセカンドに叩き込んで思い切りアクセルを開ける。リアを振って弾かれたようにブルターレが加速する。
「ちょっと!何なのよマリオ!?」
驚いて大声を出すハルを無視して、行く先をふさぐ車を僕は乱暴に追い抜いていく。
「やだ危ない!やめてってば!!」
ゴコンとヘルメットをぶつけて僕の耳元でハルが叫ぶ。僕は運転に集中する。追われてるのに気づいたのかアヴェンタドールがスピードを上げる。エキゾーストノートが大きく唸る。気を抜いてると振り切られそうだ。
何でこんな夢中になって追いかけてるんだろう、とギアチェインジして路線バスを追い抜きながら僕は思う。あの黒いランボルギーニに追いついて横に並んでそれから?どうするつもりだ?
バスの前に隠れていたワゴン車が車線変更して前をふさぐ。バイクを倒して分離帯側の隙間を僕は無理矢理すり抜ける。ハルの小さな悲鳴が聞こえる。
僕は先輩に見せつけたいんだ。紅い拳銃と合体してどんどん変わりつつある今の僕を。
そして見たいんだ。美猟先輩を助手席に乗せて悠々とランボルギーニを走らせている男の顔を。

画像

                      (RUBY THE KID  Bullet:4)

小説「リンゴロッソの恋」 パブーにて発売中。

広告