パラレルワールド・3

投稿者: kibakoichi

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「五つ数える」
 風が運んできた男の声の冷酷さが、僕の足を釘づけにする。恐る恐る僕は後ろを振り向く。50メートルくらい離れたところでバイクの上に座ったまま、別の拳銃を手にした白髪の男が、まっすぐ僕を狙っている。
 「俺を撃てなければ、殺す」
 ちょっと!
 待ってよ!!
 「やっ、あの、やめ」
 振り返ってあわあわと僕は手を振る。面白いように足が震えて何だか腰も抜けそうだ。
 「1」
 男がカウントダウンを始める。
 本気だあの人。
 本当に僕を撃つ気だ。
 「2」
 何でだよ。
 何でこんなことになるんだよ。
 「3」
 美猟先輩を振り向かせたい、
 「4」
 ただ、それだけのことだったのに!
 「5」
 ホテルの上空で稲妻が光る。世界が白と黒に塗り分けられる。
 僕を見下す美猟先輩の顔が、くっきりと一瞬、目の前に浮かぶ
 世界と向き合わずに逃げている僕を、自分に欺瞞している僕を、弱い僕を、卑怯な僕を、冷たく見つめる黒い瞳。
 体の中が、頭の中が、心の中が、からっぽになる。
 反射的に紅い拳銃を構え、二つの瞳の真ん中を狙って、僕は引き金を引き絞る。

 ガチリ。

 目の前が真っ白になって音が消える。
 光の輪が一重二重三重に広がって白熱する大きな球が銃口のすぐ前にできて地面がベコンと丸くへこんで体が宙に浮き上がって流れる視界の端の端で白髪の男が大口を開けて笑っているのが遠くに見えてそれから飛んで飛んで飛んで落ちて後頭部を思い切り地面にぶつけ脳震盪を起しながらもんどり打って僕は転がる。ぐわわわわああんと世界がスローモーションになってなかなか元にもどらなくて何十秒か(もしかすると何分か)してやっと感覚がまともになって、激しい雨とうず巻く風と粉塵にむせ返りながら、僕はゆっくりと体を起こす。そしてホテルの方を見る。
 ホテルは無かった。
 ごっそりとえぐり取られたように基礎ごと綺麗に消えていて、まるで隕石が落ちたみたいにでっかいクレーターができていた。クレーターの底には鉄骨やコンクリートが溶けて溜まって、マグマのようにぐつぐつと煮えながら、大量の蒸気を吹き上げている。

                     (RUBY THE KID  Bullet:2)

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