パラレルワールド・1

投稿者: kibakoichi

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 東京を直撃した巨大台風『ブランカ』は日本気象台観測史上最大級のモンスターで、そんなバケモノが六月の日本にやってくるのは、太陽活動の活性化と人類の狂った経済活動による環境破壊のコンボにやられて地球全体の異常気象がメインステージに突入したせいで、世界はポイント・オブ・ノーリターンを越えてしまった、半世紀を待たずして人間はもちろんすべての生命が絶滅の淵に落ちるだろう、みたいなことを学者や作家や評論家たちがテレビで語りまくっているけれど、今さら騒いだって遅せーんだよバーカ、さあ行くぞ覚悟しとけメチャクチャにしてやっからさ、と言わんばかりに、東京湾沖でさらに大きく勢力を発達させた『ブランカ』は、首都圏全域に暴風警報を発令させ、千三百万都民を家の中に押し込み、スカスカの首都高を突っ走るローズピンクのキャデラックを突風でグニャグニャ蛇行させて、バックシートに座った僕にゲロを吹かせようとしている。
 吐きそうなのはインターに乗る前に武市先生がコンビニで買ってきたワイルドターキーを呑んじゃったせいで、ボトルは隣に座ってるハルが膝の上で抱えていて、ムリクリ言ってついてきたくせにハルはものすごーく不機嫌で、原因は武市先生が口移しで僕に酒を飲ませたからだ。
 「不意打ちだったんだから仕方ねーじゃん」
 「怒んなよ」「ってゆーか何でお前が怒るんだよ」
 くらいは言ってやろうと思うんだけれど、口を開いたら最期なので、僕はじっと黙っている。
 そっぽを向いてるハルの向こう、窓の外をブッ飛んでいく嵐に呑まれた東京の夜景は、CGで作られた映画の背景みたいに、リアリティが全然なくって、まるで夢の景色のようだ。

                   (ルビー・ザ・キッド/Bullet : 01)

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